日本でもっともよく飲まれているのは緑茶ですが、四国地方には微生物の働きを活かして作られる、珍しい後発酵茶もあります。
今回は受け継がれた伝統の技が生み出す、希少なお茶をご紹介しましょう。
爽やかな香味の「阿波番茶(晩茶)」
徳島県で作られる県の特産品で、那賀郡那賀町相生地区の「相生番茶」や勝浦郡上勝町の「上勝晩茶」「神田茶」などが有名です。通常の番茶と区別するため、「晩茶」と表記することもあります。
阿波番茶は、摘み取った茶葉を発酵させて作るのが特徴です。やわらかい新芽は発酵させると溶けてしまうので、夏の暑い時期、完全に生長した茶葉を摘み取ります。それを釜茹でして摺り、樽にぎゅうぎゅう詰めこんで押し固めます。樽に重石を乗せ、茶葉の茹で汁を注いで空気を抜き、1~3週間寝かすと、その間に微生物の働きで乳酸発酵します。発酵し終わった茶葉をほぐして乾燥させると出来上がりです。この独特な製法は、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
阿波番茶は生長した葉を使うためテアニン・カテキン・カフェインの含有量が少なく、いっぽうでグルタミン酸・アスパラギン酸などの旨み成分を多く含みます。発酵で生じる酸味もあり、渋みのないまろやかな甘酸っぱさを持ったお茶です。

二段発酵の深い香り「石鎚黒茶」
愛媛県西条市小松町、西日本の最高峰である石鎚山(標高1982m)の麓で江戸時代から作られているのが「石鎚黒茶」で、阿波番茶と同じく国の重要無形民俗文化財に指定されています。
作り方は、8月上旬に生長しきった茶葉を枝ごと刈り取って蒸し、酵素の働きを止めます。枝を取り除いた茶葉を半日ほど干してから発酵室に入れると、1週間ほどで真菌の働きにより好気発酵し、発熱します。温かくなった茶葉を圧縮して板で囲い、60度弱の温度を保つように何度も茶葉を揉みこんで固めるを繰り返します。それから樽に詰めこんで重石をのせ、漬けこむうちに乳酸発酵します。約2週間経って発酵が落ち着いたら、天日乾燥します。この二段発酵によって見た目が黒くなり、独特の深い香りと柑橘のような酸味を持つお茶が誕生するのです。
かつては山間部で入手しにくい塩と交換されるほど価値あるお茶でしたが、工程が複雑なので次第に衰退。たった1軒のみが製法を伝える「幻のお茶」だったのを市民グループが存続に乗り出し、伝統技術が継承されたという感動的なエピソードのあるお茶です。

パンチの効いた酸味の「碁石茶」
高知県長岡郡大豊町だけで生産されている、希少なお茶が「碁石茶」です。石鎚黒茶と同じく二段発酵で、摘み取った茶葉を蒸してから10日ほどかけてじっくり発酵させます。それを樽に漬けこんで重石をのせ、乳酸発酵させるところまでは石鎚黒茶とほぼ同じです。
しっかり発酵したら樽から茶葉を取り出し、包丁で四角く切り分けて乾燥させます。黒い茶葉のかたまりがムシロに並ぶ様子が碁石に似ていることから、「碁石茶」の名が付きました。
乳酸発酵のおかげで強い抗酸化作用とコレステロール値の低減に役立つお茶ですが、四国の発酵茶のうちもっとも酸味が強く、発酵臭と苦みがあって個性的な風味がします。

すっきりしてゴクゴク飲める「美作番茶」
『晴れの国岡山』ならではのお茶が「美作番茶」です。梅雨明けから8月にかけて、完全に生長した茶葉を枝ごと刈り取って鉄釜で1時間ほど煮出します。そして茶葉の水気をきって、炎天下で天日干し乾燥させます。茶葉が乾いたら、鉄釜に残った煮汁をかけては天日干しを繰り返して作ります。
出来上がった茶葉は煮汁をまとって艶やかなあめ色に。生長した茶葉を使うのと、一度煮出しているためカフェインの含有量が少なく、どこか懐かしい風味とすっきりした後味が特徴です。

香ばしくて渋みの少ない「はんず茶」
知覧茶でおなじみの鹿児島県にも、希少な番茶があります。鹿児島市の旧松元町で生まれた「はんず茶」で、釜炒り茶の一種です。半胴という水瓶を火にかけ、茶葉を入れて竹ざおでかき混ぜながら炒って酵素の働きを止め、揉捻と乾燥を施して作ります。かつては自家用に作られていましたが、現在では数名だけが作る希少なお茶になっています。
淹れると釜炒りならではの香ばしい風味があり、渋みや苦みの少ない爽やかな味わいが特徴です。
CHABANASHI いかがでしたか?
暮らしを彩る「ちょっとタメになる話」になっていたら幸いです。
さまざま角度からお茶の魅力を伝えていきますので、次のお話もどうぞお楽しみに。
今日はこれまで。
ほな、さいなら。
